ギル様とダイエット計画 うららかな午後。
暑くも無く寒くも無く。窓から差し込む光が眠気を誘うような、本当に平和な時間。
こんなときは音楽でも聴きながらぼーっとするに限る。ゲームでもいいが。
「……饅頭でも取ってくるか」
そんなときのお供が無いことに気付き、我は居間へ向かおうと腰を上げて……
ダダダダダダダダッ!!
ドガァン!!!
「金ぴかー! いるんでしょ!!」
「……騒々しい。何のようだ、凛」
突然の来訪者に、上げた腰をベッドに下ろす羽目になった。
「というか、扉を蹴りで開けるな馬鹿者」
「いいじゃない。わりと急用なんだから」
ギル様の華麗なる日々 エピソード19
ギル様とダイエット計画
ベッドに腰掛けた我と、机の椅子を引っ張ってきた凛が向かい合っている。
我の部屋にしてはなんとも珍しい光景だ。
「……で、何の用だ」
「あ、そうそう。頼みがあってきたのよ」
「…………」
正直言って、嫌な予感しかしないわけだが。
「あのさ、簡単で、楽で、寝てるだけで体重が減るような宝具持ってたら貸して、っていうかちょうだい」
「……我はドラえもんか。第一、そんなもの持ってるわけ無いだろうが!」
思わず立ち上がり、頭を抱えてしまう。
どんな宝具だまったく。そんなものがあるなら我が見てみたいわ。
「……何よ、出し惜しみするなんて、ケチねえ」
「アホか! そんなくだらないものなど持っているわけがないと言っただろう!!」
「ちょっと、くだらないってどういうことよ」
むーっ、と見上げてくる凛には悪い……いや、悪くないな。そんなもの持ってるわけ無いっつーの。
「くだらないからくだらないと言ったまでだ。痩せたいなら運動でもしろ」
げしげし、と椅子を蹴っ飛ばして凛を部屋の外へ追い出す。
我の貴重な時間をなんだと思ってやがる、コイツは。
「あ、ちょっとー! 何すんのよー!」
「出て行け、馬鹿者」
「いいじゃない出してくれたってー!」
「だから! 無いものは無いと……」
「おうおう、面白そうなことやってんなー。お二人さん」
そんな我等にニヤニヤとした妖しい笑みを浮かべて声をかけてきたのは、
衛宮家きっての遊び人と化しているランサーだった。
「……相変わらず唐突な登場をする奴だ」
「なはは、任せろよ」
「……あんた、タバコ臭いわよ。どこ行ってきたのよ」
「スロット打ってきただけだ。今日も十万近く勝ってきたぜ」
十万……とか呟いている凛は無視して話を進めようとしたのだが、待ったがかかった。
「ランサー」
「なんだい?」
「今度私にもスロット教えて」
「やめとけ」
「ちょっと、即答しないでよ」
「そうだな。お前がやったら一発で破産するのが目に見えている」
「二人して何よその言い方……」
いや、どう考えてもそうだろう。ぎらぎらしてる奴ほど負けるものだ。
特に凛は大金とはあまり縁がありそうには思えないしな……。
「金ぴか? あんたは勝つの?」
「黄金律Aを持つ我が負けるわけ無いだろう」
「俺もコイツには勝てる気がしないからなー」
「悔しいわね……」
「金は金の匂いがする奴が大好きなのだ。残念だったな」
「むきー!」
ダンダン! と廊下を踏んでる凛を横目で見ながら、ランサーが聞いて来た。
「でよ、さっきは何してたんだ?」
「ああ、コイツが我に痩せる宝具を出せと言ってきただけだ」
「痩せる宝具……なんだそれ」
半眼になってランサーが呻く。さすがに聞いたことが無いようだ、っていうか、呆れ果ててるようだ。
我も同感。
「知らん。そもそもそんなもの持ってない」
「へぇ、お前でも持ってないものってあるんだな」
「我には必要ないものだからな。以前どこぞの魔術師が献上してきたことがあった気がしたが、いらんと突っぱねたはずだ」
「何てもったいないことしてるのよバカー!!」
「嬢ちゃん、太ったのか?」
「直球過ぎるのは嫌われるわよランサー」
我が見た感じでは以前とまったく変わらないのだがな。
本人が暗にではあるがそう言っているのだからそうなのだろう。
だがまあ、それでも持って無いものは無いのだけれど。
「そんなに痩せたいなら運動でも断食でもやれることはいっぱいあるじゃねーか」
「うっ……そ、それはそうなんだけどね」
「ったく、宝具に頼ろうとしてたら痩せるもんも痩せないぜ」
「……同意だな」
「う……」
「さあ、結論も出た。頑張りな」
「そうだな。手伝いはしないが応援くらいはしてやる」
「うう……」
やれやれ、これでようやく饅頭を食えるか。
さて、一人唸ってる凛は放っておいて居間へ行くかな。
「……ギルガメッシュ」
と思ったところで、なにやら思いつめた表情のセイバーが現れた。
「お、セイバーじゃねえか」
「どうした。我に何か用か?」
「なんか、私とえらく対応が違わない?」
「誰かと違っていきなり扉を足で蹴り開けたりしてないからな」
「ぐ……」
「あの……確かに用があって来ましたが……その、ここでは言いにくいので、部屋でいいですか?」
「構わんが……まあいい、お前ら入ってくるなよ」
がちゃ、と凛が蹴っ飛ばしたせいで微妙に立て付けの悪くなった扉を開けてセイバーを入れる。
「で、何の用だ」
「……ハイ。正直に言います」
「ああ」
二人になったというのにそれでも言いにくいとはよほどのことなのだろう。
視線を下に向けて右往左往していたが、決意したようで、顔を上げて真っ直ぐこっちを見てきた。
セイバーが真剣な面持ちでつむぐ言葉を我は聞き逃すまいと神経を集中して―――
「……簡単に痩せられる宝具があったらぜひ貸して欲しいと」
「お前もかーーーーーーー!!!!!」
思わず絶叫した。今日はなんなんだマジで。
我はそんなにドラえもんのような扱いをされるキャラなのか。
どいつもこいつも、人のことをなんだと思ってやがる。
「お、お前も?」
「……凛のやつも同じ事を言ってきた」
「…………」
「というわけだ。二人仲良くダイエットの計画でも練って来い」
げしげし、とさっき同様セイバーを追い出す。
扉を開けた先には、ランサーと凛がまだいた。お前ら何やってんだよ。
「あれ、早いじゃない」
「結局なんだったんだ? すげえ叫び声が聞こえたけど」
「コイツもお前と同レベルだ。仲良く計画でも立てて減量にいそしめ」
「……え? まさかセイバーも同じこと考えたの?」
「……どうやら、そのようです」
二人して落ち込む。その様子は中々に見てて楽しいのだが、あんまり追い詰めると後が怖いから―――
「しっかし、なんだな。お前ら二人して自己管理なってなさすぎなんじゃねーの?」
だから、そんな風に追い討ちをかけるのはやめろ。
どうせ我も巻き添えを食らうことは目に見えているんだから。
「わ、私は悪くない! シロウの料理が美味しすぎるのがいけないんです!!」
「そうよそうよ! これ以上美味しくなっちゃったら料理番組にだって余裕で出られちゃうわよ!
家に帰ったら帰ったでアーチャーの料理も輪をかけて美味しいし!! なんなのよあいつ等、二人して私を牛にしようとしてるんでしょ!!」
「そーやってまた坊主やアーチャーのせいにする……味がちょっとでも悪くなったら文句言うくせに」
そしてその後雑種もアーチャーもボコボコにされるんだよな。可哀想に。
「見苦しいな。それに、牛というよりはむしろトドと言ったほうがしっくり来ると思うが」
「成る程。言いえて妙だな。わはははははは!!」
「遠坂ならぬトド坂と言ったところか?」
「ト、トド坂か! こりゃあいいや!! ぎゃははははははは!!!」
とか何とか、後が怖いとか思っておきながらやっぱりからかう楽しみには替えられなかったり。
こんなチャンスは滅多にないことだしな。
「……あんたら、言ってくれるじゃない! 特にランサー! あんた笑いすぎよ!!」
「こーいうときでもねーとお前らからかって遊べねーからなぁ」
「く……だからって言っていいことと悪いことがあるのよ!!」
確かに正論だが、その台詞をお前が言うのは明らかに間違ってるぞ。
「何だ何だ、ちょっと自己管理がなってないのをからかわれた程度で暴力に走るのか。よくない傾向だぞ、トド坂」
「だ・か・ら! からかい、のレベルを超えてるだろうがぁぁぁあ!!!」
「うわっ、バカやめろ!!」
「ちょっと待て! その宝石の大きさはヤバイだろ!!」
「うるっさああああぁぁぁぁい!! あの世まで吹き飛んでけバカーーーーーー!!!」
カチ、カチ、カチ……
カッ、カッ、カッ!
時計が無機質に時間を刻む音にまぎれて、黒板にチョークが走る音が部屋を支配する。
見慣れた我の部屋には、見慣れない黒板が置かれ、その前になぜか白衣を着た凛が白チョークで何かを書いている。
その前に並べられた我、ランサー、セイバーは特に何を話すでも無くそれを見ていた。
いや、我は破壊された自分の部屋を見ていたのだが。
先ほどのもはやガンドとは絶対に呼べないような魔力弾によって破壊されつくした我の部屋は、
壁という壁が吹き飛ばされてしまったせいか、外の世界とほとんど同じとなってしまった。
おかげで冬の風がビュービュー吹き込んできて寒いことこの上ない。
「……と、言うわけで!! 私とセイバーのダイエット計画を練るわよ!!」
カカッ! と書き終えた黒板には、白いチョークででっかく
『セイバーのダイエット計画 with凛』
と書いてあった。
セイバーが主でお前はサブか。
その下のほうにはこまごまとスケジュールが書いてある。
「……どうでもいいがなぜ我の部屋でやる」
「近かったからに決まってるでしょ」
「……じゃあせめて破壊した壁くらいは直そうと思わないのか」
「自業自得でしょ」
どこがだ。
「……トドに何を言っても無駄か」
「あんたねぇ!!」
「お、落ち着いてください凛! これ以上破壊されたら今度は家そのものが!!」
「く……命拾いしたわね金ぴか! 次は無いわよ!」