小児科学(しょうにかがく、英語: pediatrics)は、新生児から思春期(だいたい12歳位まで)を対象として診療研究を行う臨床医学の一分野。
[編集] 対象年齢の区分
出生後から時期により以下のように分けている。
名称 | 時期 |
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新生児 | 出生後28日未満 |
乳児 | 生後28日から1歳未満 |
幼児 | 満1歳から小学校就学前 |
学童 | 小学生 |
以後は「中学生」や年齢そのものでの区分、もしくは成長に合わせて思春期などの区分を用いる。思春期とは第二次性徴の始まりから終わりを指す。
小児科に受診する年齢は一般的に15-20歳程度までであるが、20歳以後も小児科特有の慢性疾患を有している場合、その疾患に関して小児科であつかわれることも多い。
もともと英語の「pediatrics(小児科学)」という言葉はギリシャ語の「paidos(少年)」と「iatros(医者)」という言葉に由来する。
一般的に知られている範囲では19世紀初頃より小児特有の疾患を診療研究する分野として内科学から発展分離していた経緯を持つ。
20世紀初頭には各国で学会も設立され独立した医学領域として確立してきた。
現在は外科など内科以外の科から小児疾患を扱うべく独立した小児外科、小児循環器外科(小児心臓血管外科)、小児整形外科、小児眼科、小児耳鼻咽喉科、小児泌尿器科を分科として扱う専門病院も日本国内に存在する。
小児科は内科に対して年齢区分による分類であり、必然的に全ての臓器の疾患、感染症などを扱う。
小児科のエキスパートを表す資格としては、日本においては日本小児科学会認定医、日本小児科学会専門医が存在する。医師免許を有し、小児科の経験・キャリアを一定以上有したもののみ受験資格があり、合格する事で得られる。
また、臓器別の疾患においても高度の専門性を必要とするジャンルではさらに分科として専門医が存在する。
2008年の時点で日本における小児科分科の専門医は
日本小児神経学会専門医
日本小児循環器学会専門医
日本周産期・新生児医学会専門医
が存在する。
以下に原因別・臓器別の小児科におけるジャンルを紹介する。 ジャンルの分類に関しては国により、書籍により異なる。
[編集] 成長と発達
成長と発達は似た言葉だが発達は神経学的な成熟を示している。発達は反射といった神経学的な所見や運動などによって評価する。成長は体格の成熟を意味する言葉である。身長、体重、頭囲、腹位といったパラメータが用いられるが幼児から学童、特に低学年までならば体重が年齢×2+8kg程度あれば概ね成長は問題はないと考えられている。
- 新生児で認められ消失する反射
これらの反射の消失の合目的性は反射が消失することで手や足が器用になり運動の発達が促されると考えられている。手の反射としては以下のものが知られている。
反射名 | 出現時期 | 内容 |
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手掌把握反射 | 新生児~4か月 | 手掌を圧迫すると指が屈曲する。(物を握る頃消失) |
吸啜反射 | 新生児~4か月 | 口の中に指を挿入すると規則的な吸引運動がおこる。上唇から口角をこすると口をとがらせる。(離乳の頃消失) |
モロ反射 | 新生児~4か月 | 頭部を落下させると両手を伸展、外転手を開大する。(首が座る頃消失) |
足底把握反射 | 新生児~10か月 | 足底を圧迫すると指が屈曲する。(立つ頃消失) |
バビンスキー反射 | 新生児~2歳 | 足底外側部をこすると母趾が背屈し他の趾の幅が広がる。 |
- 新生児で認められず発達とともに出現する反射
これらは出現することで寝返りやハイハイができるようになると考えられている。
反射名 | 出現時期 | 内容 |
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緊張頸反射 | 1か月~6か月 | 首を横向きにすると同側の上下肢が進展し、反対側が屈曲する。(寝返りができる頃消失) |
ランドウ反射 | 6か月~2歳 | 児を水平に抱いて首を挙上させると体幹、下肢が進展し、腹部を前屈させると体幹下肢が屈曲する。(ハイハイするための反射) |
パラシュート反射 | 8か月~永続 | 抱き上げた児を手の中で落下させると、児は防御的に両上肢、指を伸展させる。 |
- 行動の発達
デンバーII発達判定表が有名である。
| 粗大運動(体幹) | 微細運動(四肢) | 言語 | 社会性 |
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1か月 | 顔を左右に向ける | | | |
3か月 | 首が座る、腹臥位で顔をあげる。 | 手を口に持っていく、ガラガラを握る | 声をだして笑う、声の方に振り向く、追視する | 母の顔をじっと見る |
6か月 | 寝返りをする、お座りをする | 物を手から手へ持ちもちかえる、顔に布をかけると取る | バババと喃語を反復 | 母親を識別し人見知りをする |
10か月 | ハイハイをする、つかまり立ちをする | 母指、示指でつまむ、箱から積み木を出す | 名前を呼ぶと振り向く、物まねする | 母のあとを追う |
1歳 | ひとり立ちをする | 箱の中に積み木をいれる | 意味のある単語を2つ以上言う、バイバイの動作をする | |
1歳6か月 | 手を引くと階段を歩く | 積み木を2つ積める、なぐり書き | 単語を表現する、身体の部分を指す | コップを使って飲む |
2歳 | 階段を歩く、平地を走る | 積み木を4つ積める | 2語文を話す | スプーンを使う |
3歳 | 片足立ちをする、三輪車をこぐ | 丸を書く、くつ、上着を脱ぐ | たずねると名前が言える | はしを使う、パジャマが着られる |
4歳 | ケンケンができる | 四角を書く、はさみが使える | 自分の名前を読む | かくれんぼ、じゃんけんができる |
5歳 | スキップする、ぶらんこを立ってこぐ | 三角をかく、はさみで線の上を切れる | しりとりができる | 友達と競争する |
- 健康診断
これらの成長、発達をスクリーニングするサービスとしては健康診断があげられる。日本の場合は1カ月検診にはじまり、3か月、6か月、9か月、12か月、3歳児の健康診断がある。Ameriacan Academy of Pediatricsでは2週間、1か月、2か月、4か月、6か月、9か月、12か月といったように回数が多いのが特徴である。この回数の違いは正常分娩児の入院日数に関係していると考えられる。米国の場合は経腟分娩ならば2日間、帝王切開ならば4日間の入院期間であるが、日本は5日~7日間の入院期間がある。そのため日本では新生児に関しても十分な診察を行う時間的余裕もあり、母乳の指導や黄疸の評価まで行うことができる。そのため、健康診断の回数を少なくできるとされている。母乳は1回20分で毎日8~12回である栄養が不十分であると乳児はよく泣き、泣き疲れて寝てしまう。最終的には体重増加不良となる。通常は生理的な体重減少後の体重増加は20~30g/dayである。平均体重2300gの7%(230g)の体重減少が出生後3~5日で示したとしても2週間も� ��れば元に戻るはずである。この兆候が認められなかった場合、母乳の与え方に問題がある可能性が高く指導が必要である。1か月の経過ではそれを評価するには遅すぎて不適切な母乳投与が母も児も癖になってしまうことが多い。また生後2週間までならば新生児は寝る、栄養をとる、排泄する、寝るの繰り返しであり、泣く理由もわかりやすく対処しやすいが2週間を過ぎると夜泣きも始まる。夜泣きは3時間泣くことが週3回以上、合計3週間以上続きことである。夕方の6時から深夜12時の間にのみおこり、ミルクをあげる、オムツを替える、あやすといった対処法が無効である。1か月ほどすると母親にもマタニティーブルーや産後うつ病の発生のリスクがある。アメリカではこれらの指導を健康診断で行うが、日本では出産入院中の母親学� ��で行われる場合が多い。下痢、嘔吐、黄疸、発熱、発疹、結膜炎出現時は医療機関受診とし、それ以外は1か月検診まで新たに指導を加えることは一般的ではない。母親の1カ月検診では産後うつ病のスクリーニングとしてエジンバラ産後うつ病自己評価表の記入なども行われる。
- 歩行
デンバー発達判定法によると1歳5か月過ぎになると90%の子供は上手に歩けるようになる。この時期に歩けていない場合はかなり歩き出すのが遅いということになり専門機関の受診が必要である。それ以前の6カ月における首座り、お座り、1歳時におけるつかまり立ちが遅れた場合も同様に精査が必要である。この場合は先天性の異常や広汎性発達障害などが疑われる。軽度の精神発達異常ではこの時期は知的な遅れは認められず、筋力の低下が認められるのみで経過観察の場合が多い。この場合は遅れを治療することは非常に難しく、社会的支援が必要となる。しかし頻度としてはシャフラー(いざり児)と呼ばれる良性の発達遅延であり、その後発達が追い付き正常化する。仮に歩き出す時期が正常であっても歩き方がおかしく転び� ��すい児、具体的にはペタペタ歩行、内反歩行(うちわ歩行)、外反歩行(そとわ歩行)、尖足歩行などが認められた場合は筋疾患、脳性麻痺、運動失調、骨格異常が認められる可能性があり精査が必要となる。
- 言語
言語の発達が正常に経過するには4つの条件が必要である。まずは発声器官や構音器官が正常であること。これらの器官を合目的に使用するための知能が発達すること。合目的使用を学習するための適切な場が存在すること。聴覚、視覚の機能に支障がないことである。6カ月頃まで(目安としては3か月)には名前を呼ばれると振り向いたり、イナイイナイバーをすると声を出して笑ったりする。8か月までには人見知りが始まり、いかにも話しているような喃語を話している。声の出し方にも強弱がつくようになる。10か月頃には簡単な指示行動が可能になる。指さしには反応するし、おいでおいでとするとハイハイでやってきて頂戴という動作も行う。1歳の時点ではパパといえたとしても母親もパパと言ったり確信できない要素がか� ��り含まれるが1歳6か月位になると感情表出もできて「いや」と表現したり二語文が出現したりする。2歳の時点ではこれらが完成していることが多い。
- 離乳
母乳は1歳を過ぎる時期でも免疫グロブリンを含んでおり感染防御という点では優れている。子育てには文化があり、医学的な根拠は見出しにくい。吸啜反射が4か月ほどで消失してくるため、この頃から6か月あたりで間離乳食の導入が行われるのが一般的である。いつまで母乳を飲んでいても問題はないのだが、栄養の観点から言うと12か月までには主たる栄養を母乳以外の離乳食にて行われることが望ましいとされている。この頃には卒乳をしても問題はない。パキスタンなどでは9か月の時点で通常のカレーを摂取している。
- 排泄
排泄コントロールに関しても文化がある。かつては日本は物質が乏しかったため極めて早期に排泄の自立を促してきた。トイレットトレーニングはかつては大便は4か月、小便は12か月より開始していた。しかしこの方法では、一定の割合で脱落し、おむつ使用に戻る例も見られていた。夜間の大便、日中の大便、日中の小便、夜間の小便という順にトイレットトレーニングを行う2歳過ぎからトレーニングを始めれば4歳で77%、6歳で91%がひとりで後始末ができるようになる。これ以前にトレーニングを行っても平均的には殆ど変わらないとされている。
[編集] 新生児疾患
詳細は「新生児学」を参照
- 新生児呼吸窮迫症候群 (RDS)
新生児呼吸窮迫症候群(こきゅうきゅうはくしょうこうぐん)は、肺サーファクタントが足りない為に起こる症候群である。肺のII型肺胞上皮細胞から分泌される肺サーファクタントが足りない為に、肺胞の表面張力に負けて肺が潰れてしまうことによっておこる。呼吸の呼気終末期に肺が縮んだ際に、肺胞が肺胞の表面張力に負けて潰れてしまう。肺胞が潰れるとその肺胞への血流が減り、サーファクタントの産生が低下し、さらに表面張力が低下するという悪循環に陥る。症状としては肺が潰れないように小さく頻回に呼吸をする。頻回に呼吸する事を頻呼吸と言う。肺が潰れないように肺が大きめの状態を平均とした呼吸をする。大きい状態から更に息を吸うために、お腹が目立って凹む。お腹を凹ませながら呼吸することを陥 凹呼吸と言う。肺が潰れないように息を吐くときに喉と口を閉じ気味にして、呻る時と同じ様に息こらえをしながら息を吐く。息こらえをしながら息を吐く事を呻吟(しんぎん)と言う。肺の酸素化が充分でないためにチアノーゼを来たす。検査としては胸部レントゲン写真検査では機能している肺胞に潰れた肺胞が混在して網状顆粒状陰影(もうじょうかりゅうじょういんえい、reticulogranular)が見られる。これは新生児呼吸窮迫症候群に特徴的な所見である。肺胞が潰れるために気管支のみが浮き彫りになって気管支透亮像が見えることもある。
- 胎便吸引症候群 (MAS)
胎便吸引症候群(たいべんきゅういんしょうこうぐん)は、胎便を肺に吸い込んで起こる症候群である。
- 肺成熟不全症(Wilson-Mikity syndrome、Mikity-Wilson syndrome、ウィルソン・ミキティ症候群、ミキティ・ウィルソン症候群、泡状肺症候群)
生後2~3週間後に呼吸促迫症候群に似た症状を示す。
[編集] 先天異常・奇形
奇形症候群とも呼ばれ、身体のいずれかに複数の奇形を一定の傾向をもって持つもの毎に病名が付けられている。殆どは遺伝子に問題があるため発症すると考えられ、近年遺伝学の進歩で多くの遺伝子が解明した。身体の発生の終了した出生時点ではすでに症状は固定しており、一般的に治療法は少ない。一部の疾患では脳外科・形成外科的な手術にて機能や整容を直すこともある。強い知能・身体の障害のある場合は療育やリハビリテーションの対象となる。
特徴的な外見や多くの例に認める知能障害のため社会的差別の対象となりやすいため過去から多くの問題をよんできた。また、ダウン症候群は比較的頻度が多く物語も多く作られてきた。しかし知能に問題のある症候群も多いのは確かではあるがすべてではない。知能に問題がある場合が多いのは神経の発生・分化・代謝に多くの遺伝子がかかわっているためと考えられる。知能への影響が比較的多い為、小児神経科医が臨床では担当することが多い。
病名の定まっていないものも実際には沢山あり、定まっているものだけでも4000種類以上ある。臨床上専門医が比較的多く認めるのは200種類程度と考えられる。 分類がはっきりと定まっているわけではないが以下に分けて記載する。
- 頭部、顔面の異常を主とする症候群
全前脳胞症、ヌーナン症候群、アペール症候群、ダウン症候群、歌舞伎メーキャップ症候群、眼瞼裂縮小症など
- 四肢の異常を主とする症候群
軟骨無形成症、偽性副甲状腺機能低下症など
- 過成長を主とする症候群
ソトス症候群、マルファン症候群
- 脳・神経・筋・関節の異常を主とする症候群
プラダー・ウイリー症候群、脆弱X症候群など
- 神経・皮膚症候群
結節性硬化症、フォン・レックリングハウゼン病(神経線維腫症1型)など。